公認心理師と精神保健福祉士の違い




公認心理師に近い資格として精神保健福祉士があります。どちらを目指すべきか悩んでいる高校生の声もよく耳にします。

公認心理師と精神保健福祉士。
どちらも人の心の問題に関わる仕事ですが、精神保健福祉士はあくまで「精神疾患患者やその家族、周囲の人」が支援の対象です。
公認心理師は精神科領域だけが活動フィールドではありません。

今回は、公認心理師と精神保健福祉士について色々と比較してみました。

公認心理師と精神保健福祉士における受験資格(受験ルート)の違い

公認心理師の受験資格については既にご存知の方も多いかと思いますが、これからは図のABC(特にA)がメインルートになります。
DからGは経過措置のルートです。

精神保健福祉士と公認心理師の受験資格の違い
(クリックで拡大表示できます)

精神保健福祉士は…ちょっと複雑。
国家試験を受験するためのルートが複数あるようです。

メインルートは4年制の福祉系大学を卒業することだと思います。
ですので、精神保健福祉士の場合、国家試験を受験できるまでの期間が最短4年ということですね。

公認心理師の場合、心理系の大学+大学院もしくは指定プログラムがこれからスタンダードになると思いますので最短でも6年ということになります。

これまでは、心理系の大学を出て精神保健福祉士になるために一般養成施設(専門学校)に行くというケースも割とあった気がします(私の知り合いにも何人かいました)。
しかし、心理に国家資格が出来たのでこういった道は少なくなるかもしれませんね。

むしろ、精神保健福祉士と公認心理師のダブルライセンスが増えてきそうです。
心理と福祉の両方の学科を持つ私立大学にはこうした動きがあるようです。
はじめから精神科領域の心理職に就きたいと思っている人にとっては良い選択肢なのではないでしょうか。

ちなみに、精神福祉士のような短期養成施設や一般養成施設は公認心理師にはありません。

受験資格については、精神保健福祉士の方が選択肢が多く、国家試験を受験できるまでの最短期間も短いということになります。



公認心理師と精神保健福祉士のメインルートにおける履修科目の違い

精神保健福祉士と公認心理師のメインルートにおける履修科目の比較

履修科目は精神保健福祉士に比べ、公認心理師の方が圧倒的に多いようです。
(精神科領域に特化した心理職資格ではないので当然ですが…)

【訂正】

精神保健福祉士の指定科目に関する情報が古かったようです。最新のものは以下のとおりです。失礼致しました。

<公益財団法人 社会福祉振興・試験センターHPより>



〈参考〉精神保健福祉士国家試験について

精神保健福祉士国家試験では、出題基準として17の試験科目があります。

試験科目
1. 精神疾患とその治療
2. 精神保健の課題と支援
3. 精神保健福祉相談援助の基盤
4. 精神保健福祉の理論と相談援助の展開
5. 精神保健福祉に関する制度とサービス
6. 精神障害者の生活支援システム
7. 人体の構造と機能及び疾病
8. 心理学理論と心理的支援
9. 社会理論と社会システム
10. 現代社会と福祉
11. 地域福祉の理論と方法
12. 福祉行財政と福祉計画
13. 社会保障
14. 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
15. 低所得者に対する支援と生活保護制度
16. 保健医療サービス
17. 権利擁護と成年後見制度

そして、これらの試験科目は、大項目・中項目・小項目に分類されています。

[精神保健福祉士国家試験]出題基準:別添 科目別出題基準:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター

他の国家試験でもこのように分類されていますので、公認心理師国家試験でもこれに準じたブループリントが公表されることになると思います。

実質、中項目が試験の出題内容となる事項であり、試験問題はこの範囲から出題されています。

精神保健福祉士国家試験の試験科目のうち、特に、1.「精神疾患とその治療」と8.「心理学理論と心理的支援」は内容も重複するのではないでしょうか
「人体の構造と機能及び疾病」あたりも参考になるかな。

1.「精神疾患とその治療」

大項目 中項目 小項目(例示)
1 精神疾患総論(代表的な精神疾患について、成因、症状、診断法、治療法、経過、本人や家族への支援を含む)
1)精神医学、医療の歴史と現状
2)精神現象の生物学的基礎
  • 脳の構造
3)こころの理解
  • こころの生物学的理解、精神分析から見たこころ
4)精神障害の概念
  • 健康、精神症状、精神疾患、精神疾患に由来する障害
5)精神疾患の成因と分類
  • 三大分類、国際分類法
6)代表的な疾患
  • 統合失調症、気分障害、ストレス関連障害、認知症、発達障害、依存症、てんかん
7)精神症状と状態像
8)診断の手順と方法
9)身体的検査と心理的検査
2 精神疾患の治療
1)精神科薬物療法
  • 薬理作用と副作用
2)電気けいれん療法などの身体療法
3)精神療法
4)精神科リハビリテーション
  • 家族療法
  • 心理教育
  • SST(社会生活技能訓練)
  • デイケア
5)環境・社会療法
3 精神科医療機関の治療構造及び専門病棟
1)疾病構造と医療構造の変化
2)外来診療
3)在宅医療(訪問診療、往診等)
  • アウトリーチ型医療
4)入院医療(さまざまな専門病棟等)
4 精神科治療における人権擁護
1)精神科治療と入院形態
  • 指定医、病棟特性、処遇
2)インフォームドコンセント
3)隔離、拘束のあり方
  • 行動制限最小化
4)精神科救急医療システムとその対象
5)移送制度による入院
5 精神科病院におけるチーム医療と精神保健福祉士の役割
1)報告、連絡、相談、カンファレンス等
6 精神医療と福祉及び関連機関との間における連携の重要性
1)治療への導入に向けた支援
2)再発予防のための支援
3)退院促進の支援
  • 包括型地域生活支援プログラム(ACT、PACT)
4)心神喪失等の状態で重大な他害行為を行なった者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)

 

2.「心理学理論と心理的支援」

 
大項目 中項目 小項目(例示)
1 人の心理学的理解
1)心と脳
2)情動・情緒
3)欲求・動機づけと行動
4)感覚・知覚・認知
5)学習・記憶・思考
6)知能・創造性
7)人格・性格
8)集団
9)適応
10)人と環境
2 人の成長・発達と心理
1)発達の概念
  • 発達の定義、発達段階、発達課題、生涯発達心理、アタッチメント、アイデンティティ
  • 喪失体験
  • その他
3 日常生活と心の健康
1)ストレスとストレッサー
  • ストレッサー
  • コーピング
  • ストレス症状(うつ症状、アルコール依存、燃え尽き症候群(バーンアウト)を含む。)
  • ストレスマネジメント
  • その他
4 心理的支援の方法と実際
1)心理検査の概要
  • 人格検査、発達検査、知能検査、適性検査
  • その他
2)カウンセリングの概念と範囲
  • カウンセリングの目的、対象、方法
  • ピアカウンセリングの目的、方法
  • その他
3)カウンセリングとソーシャルワークとの関係
4)心理療法の概要と実際(心理専門職を含む。)
  • 精神分析、遊戯療法、行動療法、家族療法、ブリーフ・サイコセラピー、心理劇、動作療法、SST(社会生活技能訓練)
  • 臨床心理士
  • その他

[精神保健福祉士国家試験]出題基準:別添 科目別出題基準:公益財団法人 社会福祉振興・試験センター

くわえて、“精神保健福祉法”、“精神保健福祉法における精神保健福祉士の役割”なども中項目に挙げられていますので、これらと同様に“公認心理師法”、“公認心理師法における公認心理師の役割”なども抑えておくべき内容だと思います。
これについては現任者講習で触れられる内容ですね。

現任者講習を受講しない方も講習会のテキストは購入できるようですし、それ以外にも遠見書房から発売予定の“「公認心理師の基礎と実践」シリーズの第1巻”で学習することが可能です。

現任者講習の内容をカバーできる本についてはこちらの記事を参考にして下さい↓

かなり踏み込んだ予想!公認心理師現任者講習のテキストについて

まとめ

公認心理師と精神保健福祉士の違いについて調べてみました。

受験資格を得るためのルートについては、精神保健福祉士の方が選択肢が多く、国家試験を受験できるまでの最短期間も短いです(精神保健福祉士:最短4年、公認心理師:最短6年)。

受験資格を得るために必要な科目も精神保健福祉士に比べ、公認心理師の方が多く履修しなければなりません。

国家試験については精神保健福祉士の内容が参考になる部分も多くあると思われます。

個人的には、“精神科領域で働きたい”という明確なビジョンを持っている人は、心理と福祉の両方の学科がありダブルライセンス取得をウリにしている大学(大学院)で精神保健福祉士と公認心理師の両方を取得するのも良いと思います。経済的に大学院への進学が厳しい人は、精神保健福祉士を取得し、大学院へは進まずに指定プログラムという選択肢もいいかもしれません。
今の段階では、指定プログラムを設置する施設がどれくらい出てくるかは分かりませんが…。