同じ質問でも、答えの質は変わる|心理職のためのプロンプト入門
※2026年9月時点の情報です。
「心理職のためのプロンプト入門」と書きましたが、実は、ここで紹介したいのは「よいプロンプトを書くための型」ではありません。
生成AIが広がり始めた頃は、
あなたは○○の専門家です。
と最初に役割を与えたり、決まった形式に沿って細かな条件を書いたりする方法がよく紹介されていました。
こうした方法が使われなくなったわけではありませんし、役割を指定した方が、視点や文章のトーンをそろえやすいこともあります。
しかし、最近のAIは、以前よりも自然な言葉で書かれた指示や、複数の条件をまとめて理解できるようになっています。現在の各社のガイドでも、特別な言い回しを覚えることより、何をしてほしいのかを明確にすること、必要な背景を伝えること、出てきた回答を見ながら調整することが重視されています。
そのため、普段の仕事でAIを使うのであれば、最初から長いプロンプトを作り込まなくても大丈夫です。
たとえば、教員向けの研修を頼まれたとします。
不登校について、教員向けの研修資料の構成を考えてください。
まずは、これくらいから始めます。
出てきた構成を見て、基本的な説明が多いと思ったら、
不登校そのものの説明は短めにして、初期対応を中心にしてください。
と返す。
さらに、
担任が「自分が何とかしなければ」と抱え込まない内容にしたいです。
と加える。
こうしてやり取りしながら、必要なものに近づけていきます。
プロンプトというと、何か特別な書き方があるように聞こえますが、普段の仕事であれば、人に仕事を頼むときとそれほど違わないと考えると分かりやすいと思います。
では、どんなことを伝えると話が早いのでしょうか。
何をしてほしいのか
まずは、AIに何をしてほしいのかです。
同じ「不登校」というテーマでも、知識を得たいのか、研修の構成を考えたいのか、自分が書いた文章を確認してほしいのかでは、頼む内容が変わります。
たとえば、
中学校の教員向けに、不登校の初期対応で押さえておきたい点を整理してください。
と頼めば、単に「不登校について教えて」と聞くより、こちらが求めているものがはっきりします。
ほかにも、
この2つの考え方を比較してください。
この文章で、根拠を確認した方がよいところを挙げてください。
この案とは違う立場から、問題になりそうな点を考えてください。
といった頼み方ができます。
ここで、冒頭に「あなたは優秀な心理学者です」と書く必要は必ずしもありません。
文章を批判的に見てほしいのであれば、「心理学者として批判的に検討してください」と役割を与える方法もありますが、
この文章について、根拠が十分でないところや、確認が必要なところを挙げてください。
と、してほしいことを直接伝える方法もあります。
役割を指定するかどうかにこだわるより、まず何をしてほしいのかをはっきりさせる。普段使うのであれば、そのくらいで十分です。
誰が読むのか、何に使うのか
文章や資料を作るときには、使う場面も伝えておくと便利です。
たとえば、
アンガーマネジメントについて説明する資料の構成案を作ってください。
と頼んだとします。
中学生向けの授業と、企業の管理職向けの研修では、同じアンガーマネジメントでも内容は変わります。
企業研修なら、
製造業の管理職向けです。40〜50代が中心で、年1回の安全衛生研修の一部として実施します。部下への接し方を振り返ってもらうことが目的です。「怒ってはいけない」「感情を抑えなさい」という説教にはしたくありません。
といった情報を加えます。
心理職が文章を作るときには、「何を伝えたいか」だけでなく、「どう受け取られたくないか」も大事です。
「不安をあおりたくない」「本人の努力不足だと受け取られないようにしたい」「保護者を責めるような文章にはしたくない」。
こうした希望も、そのまま書いて構いません。
使う形が決まっているなら、それも伝える
内容は使えそうなのに、長すぎる。一般向けなのに専門用語が多い。文章でほしいのに箇条書きばかり。
そんなズレもあります。
使う形が決まっているなら、
800字程度で、見出しは3つ。です・ます調で、専門用語には簡単な説明を添えてください。
と伝えておけば、その後の修正が少なくなります。
文章の雰囲気についても、「穏やかに、断定しすぎず」「簡潔で事務的に」「一般の人にも分かる言葉で」くらいで十分です。
ただし、条件を増やせば増やすほどよいわけではありません。
最近のモデルでは、古いモデル向けに作られた複雑なプロンプトをそのまま使うと、余計な制約になったり、機械的な回答につながったりすることも指摘されています。GoogleもGemini 3.xについて、旧世代向けの冗長で複雑なプロンプト技法より、簡潔で直接的な指示を勧めています。OpenAIも新しいモデルほどプロンプトしやすい傾向があると説明しています。
必要なことだけ伝えて、足りなければあとから加える。そのくらいでよいでしょう。
言葉で伝えにくいときは、例を見せる
「もう少し自然に」「自分が書く文章に近づけたい」といった希望は、言葉だけでは伝えにくいものです。
そんなときは、自分が以前書いた文章を例として見せる方法があります。
以下は以前、自分で書いた相談室だよりです。内容ではなく、文章の長さや言葉遣いを参考にして、同じくらいの雰囲気で10月号の文章を作ってください。
見出しの付け方や資料の構成を参考にしてほしいなら、その例を見せても構いません。
例を使って望む形式やトーンを示す方法は、現在も主要なAI各社が有効な方法として紹介しています。
ただし、仕事で使った文章を入力する場合には、クライエントや関係者を特定できる情報が含まれていないか確認します。
一度で完成させなくていい
ここまで読んで、「結局いろいろ指定しないといけないのでは」と思った人もいるかもしれません。
実際には、全部を最初に書く必要はありません。
まず頼んでみる。出てきたものを読む。
「説明が多い」と思ったら減らしてもらう。「少し説教くさい」と感じたら、その印象を弱めてもらう。「ここだけ具体例がほしい」と思ったら追加してもらう。
たとえば、
3つ目の見出しだけ、もう少し具体的にしてください。
内容は変えずに、もう少し普段の言葉にしてください。
前半が長いので、少し短くしてください。
今とは違う切り口でもう1案考えてください。
といった具合です。
現在のChatGPTの公式ガイドでも、最初の回答を確認し、必要に応じて言い回しを変えたり、背景を加えたりしながら改善する「反復的なアプローチ」が勧められています。
最初の一文にすべてを詰め込むより、出てきたものを見て、どこを直したいのかを伝える。
普段の仕事では、こちらの方が使いやすい場面も多いと思います。
たとえば、心理教育資料を作るなら
大学生向けに、睡眠についての心理教育資料を作るとします。
最初は、
大学生向けに、睡眠についての心理教育資料を作ってください。
と頼んでみます。
読んでみると、一般的な睡眠衛生の説明が中心で、今回作りたいものとは少し違った。
そこで、
生活リズムが崩れている自覚はあるけれど、まだそれほど困っていない大学1〜2年生を想定してください。「早寝早起きをしましょう」という内容ではなく、生活リズムと気分の関係に気づいてもらう資料にしたいです。
と伝えます。
内容が固まってきたら、
600字程度で、見出しは2つ。最後に学生相談室の案内を入れてください。話し言葉に近い文章にしてください。
と、実際に使う形に整えていきます。
プロンプトを書くというより、やり取りしながら、作りたいものを具体的にしていく。
最近のAIなら、この使い方も十分現実的です。
頼み方と、正しさは別の話
最後に、ここは分けて考えておく必要があります。
頼み方を工夫すると、こちらの意図に近い回答は出やすくなります。しかし、それだけで内容が正しくなるわけではありません。
文献、制度、ガイドラインなどを仕事で使う場合には、必要に応じて原典や一次情報を確認します。専門的な判断そのものをAIに委ねないことも同じです。
また、プロンプトが上手ならクライエントの情報を入力してよい、ということにもなりません。守秘義務や個人情報の扱いは、プロンプトとは別の問題です。
プロンプトは、AIを正しくする魔法ではありません。
こちらが何を求めているのかを、AIに伝えやすくするものです。
まとめ
プロンプトの考え方も、AIの進歩とともに少しずつ変わっています。
役割を指定する。細かな条件を書く。例を見せる。こうした方法は、今でも必要に応じて使えます。
ただ、毎回決まった型に当てはめる必要はありません。
何をしてほしいのか。誰が読むのか。何に使うのか。必要なら、長さや書き方も伝える。
まず使ってみて、違えば直していく。
「よいプロンプトを一発で書く」ことより、AIとのやり取りの中で、必要なことを伝えていく。
今のAIを普段の仕事で使うなら、このくらいに考えておくのがよさそうです。
次回は、実際に心理教育資料をひとつ作る過程を取り上げます。最初にどのくらいの指示から始め、出てきた文章をどう直していくのか。実際の作業に近い形で紹介します。
心理職がAIを使うときの共通の注意
- クライエントの情報を安易に入力しない
- 所属機関の規程と、利用するサービスのデータ取扱いを確認する
- AIの出力は自分で確認し、重要な判断を委ねない
