個人情報ゼロで、今日から使える|心理職のAI活用7つ
※2026年9月時点の情報です。
前回は、心理職がAIを使うときに、何を入力してよいかを考えました。
では、クライエントの情報を使わずにできることは、どのくらいあるのでしょうか。
実際には、かなりあります。
文章を整える。研修の構成を考える。検索語を広げる。コードを書く。
まずは、個人情報や事例情報を扱わずにできることから見ていきます。
今回は、心理職の仕事の中から、比較的取り入れやすい7つを紹介します。
① 研修や講義の骨組みを考える
60分の研修を頼まれたとしましょう。
話したいことはある!でも、どこから始めて、どこに時間をかけるかが決まらない(><)
という経験はないでしょうか?
そんなときは、構成案を考えるための壁打ち相手として使うと便利です。
入力例
「教職員向け・児童虐待の早期発見と通告」をテーマに、60分の研修を行います。
小中学校の教員を対象に、各パートの時間配分を含めた構成案を出してください。
ここで欲しいのは、完成した研修ではありません。
「この順番は使えそう」
「ここはもっと時間を取りたい」
「この話も必要そう」
そんなふうに、自分で構成を考えるための材料にします。
AIの案は無難になりやすいので、最後に現場での経験や、自分だから話せることを足していきます。
② 心理教育資料のたたき台をつくる
保護者向けのプリント、患者さん向けの説明資料、職場のメンタルヘルス便りを作る際も役立ちます。
伝えたいことは決まっているのに、パソコンを前にすると手が止まる。こういうことはよくあります。
そんなときは、最初のたたき台だけAIにつくってもらいます。
入力例
小学生の保護者向けに、子どもの不安について説明するA4一枚のプリントの下書きを作ってください。
・心理学の知識がない人にも分かる表現
・専門用語はできるだけ使わない
・「不安は悪いものではない」という内容を含める
・見出しは3つ程度
・800字程度
もちろん、そのまま配るわけではありません。
内容を確認して、順番を変えて、自分の言葉に直す。これは欠かせないプロセスです。
それでも、ゼロから書き始めるよりかなり楽です。
このとき、「誰が読むのか」を具体的に伝えると、文章が調整しやすくなります。
「保護者向け」より「小学校低学年の子どもをもつ保護者向け」。
少し具体的にするだけでも、出てくる文章は変わります。
③ 案内文や事務文書を整える
これは、かなり使いやすいところです。
相談室だより。
保護者会の案内。
会議の開催通知。
依頼状やお礼状。
一つひとつは大仕事ではありませんが、積み重なると地味に時間を取られます。
必要な情報がすでに決まっているなら、
この内容を、保護者向けに穏やかな文章にしてください。
少し事務的で簡潔な文面に整えてください。
くらいでも十分です。
内容だけでなく、文章のトーンを伝えるのがコツです。
「親しみやすく」
「簡潔に」
「高校生にも伝わるように」
このあたりを足すだけでも、かなり変わります。
④ 自分の理解を確かめる
自分がよく知っているテーマを、あえてAIに説明させてみるのも使えます。
たとえば、
アタッチメント理論を、中学生にも分かるように説明してください。
動機づけ面接とCBTの違いを、実践上の違いに絞って整理してください。
と聞いてみる。
すると、
「そこは少し違う」
「その説明だと誤解されそう」
「もっと大事なところがある」
と気づくことがあります。
この違和感が意外と役に立ちます。
AIの説明を読むことで、自分が何を大事にして理解しているのかが見えてくるからです。
ただし、この使い方は、自分がある程度分かっている領域で!!!
ほとんど知らないテーマでは、間違っていても気づけません。
⑤ 文献検索の検索語を考える
AIに文献そのものを挙げてもらうと、存在しない論文が混ざることがあります。
では文献検索には使えないのかというと、そうでもありません。
文献そのものではなく、検索語を考えてもらう方法があります。
入力例
「教職員のバーンアウト」について文献を探します。
CiNii、J-STAGE、PubMed、Google Scholarなどで使えそうな検索語を、日本語と英語で挙げてください。
類義語や関連する概念も含めてください。
すると、「burnout」だけでなく、「teacher burnout」「emotional exhaustion」「occupational stress」など、自分では思いつかなかった候補が出てくることがあります。
その検索語を使って、実際の文献データベースを検索する。
この順番なら、かなり使いやすいです。
検索機能をもつAIも増えていますが、実際に引用する文献は原典を確認する。ここは変わりません。
⑥ 自分のメモを整理する
考えたことはたくさんある。でも、まとまっていない。
そんなときは、整理だけ任せることもできます。
入力例
以下は自分で書いたメモです。
新しい内容は追加せず、似た内容をまとめて見出しをつけ、論点が分かるように整理してください。
ここでは、「内容を追加しない」と指定しておくのがおすすめです。
勝手に情報を足されると、どこまでが自分の考えだったのか分からなくなるからです。
一つだけ注意があります。
会議や研修のメモには、思った以上に個別情報が紛れています。
氏名がなくても、年齢、所属、診断名、家族の情報などから本人が分かることがあります。
入力する前に、一度中身を見る。
個別情報をきれいに切り離せないメモなら、AIには入れません。
⑦ 統計処理のコードを書いてもらう
研究やデータ集計をする人には、かなり便利です。
入力例
Rで2群の平均値を比較し、効果量も算出したいです。
「group」列に群、「score」列に得点が入っています。
必要なコードと、それぞれ何をしているのか説明してください。
実際のデータを渡さなくても、変数名とデータの構造、やりたい分析が分かれば、コードはかなり書けます。
しかも、コードは自分で実行して確認できます。
ただし、「動いた=正しい」ではありません。
分析方法そのものが適切か。前提条件を満たしているか。結果をどう読むか。
そこは別に確認が必要です。
実データを渡さなくてよい場面なら、わざわざ渡す必要もありません。
どれから試す?
7つ全部を使う必要はありません。
最初なら、案内文や事務文書あたりが気楽です。
個別の情報を使わずに済みますし、元の内容も自分で分かっているので、「これは使える」「これは変だ」が判断しやすい。
その次に、自分がよく知っている心理学のテーマを説明させてみるのもよいと思います。
意外と正確なところもあれば、
「いや、そこは違う」
というところも出てきます。
AIがどのくらい役に立って、どのあたりから怪しくなるのか。まずは自分が分かる領域で確かめてみる。
最初はそのくらいで十分です。
7つに共通していること
今回紹介した使い方には、ひとつ共通点があります。
AIに全部を任せていないことです。
伝えたい内容は自分が持っている。
研修で扱いたいテーマも決まっている。
分析したいことも分かっている。
探したい文献のテーマも決まっている。
そのうえで、文章にする、整理する、候補を出す、といった部分を手伝ってもらっています。
逆に、
「よく分からないから全部教えて」
「どれが正しいか決めて」
となるほど、自分では間違いを見つけにくくなります。
AIを使うときは、何をAIに渡すかだけでなく、自分が何を分かっている状態で使うかが大事です。
まとめ
① 研修・講義
完成品ではなく、まず骨組みを出してもらう。
② 心理教育資料
誰に向けた資料なのかを具体的に伝える。
③ 案内文・事務文書
内容だけでなく、文章のトーンも指定する。
④ 概念の説明
自分がある程度分かっている領域で使う。
⑤ 文献検索
文献そのものではなく、検索語を広げてもらう。
⑥ メモ整理
入力前に、個別情報が混じっていないか確認する。
⑦ 統計コード
コードが動いても、分析方法や内容は自分で確認する。
今回は、クライエント情報を入力しなくてもできることだけを紹介しました。
この範囲でも、生成AIは十分に役立ちます。
そして、少し使ってみると、次に気になってくることがあります。
同じことを頼んでいるのに、頼み方によって答えがずいぶん違う。
次回は、心理職のためのプロンプト入門です。
難しい「プロンプト術」ではなく、普段の仕事で使うなら、何を伝えれば十分なのかを扱います。
心理職がAIを使うときの共通の注意
- クライエントの情報を安易に入力しない
- 所属機関の規程と、利用するサービスのデータ取扱いを確認する
- AIの出力は自分で確認し、重要な判断を委ねない
