心理職がAIを使う前に決めておく一線|守秘義務と個人情報の考え方
※2026年9月時点の情報です。
生成AIを仕事で使う際、「何を入力してよくて、何を入れてはいけないのか」気になっている人も多いのではないでしょうか。
文章を整える。資料の構成を考える。アイデアを出してもらう。
このあたりは使いやすそうです。
しかし、心理職が扱うのは、かなり個人的な情報です。ここは、慎重に考えるべきところです。
日本では、まだ共通のルールが十分にない
現時点では、日本の心理職を対象にした生成AI利用の具体的な指針は、まだ十分に整っているとはいえません。
日本公認心理師協会や日本臨床心理士会からも、生成AI利用に特化した包括的なガイドラインは、少なくとも現時点では確認できません。
海外では、米国心理学会(APA)などがAI利用に関する倫理的な考え方を示し始めていますが、日本ではまだ「これに従えばよい」という共通の基準がありません。
しかし!ルールがない=自由に使ってよいではありません。
まずは、心理職にすでにあるルールから考えてみしょう。
出発点は、守秘義務
公認心理師法第41条には、秘密保持義務が定められています。
公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。
生成AIに入力した情報は、自分のパソコンの中だけで処理されるとは限りません。
利用するサービスによっては、外部のサーバーに送られ、一定期間保存されることもあります。
そのため、
「人に話したわけではないから大丈夫」
とは考えない方がいいでしょう。
AIに入力したかどうかだけではなく、その情報がどこに送られ、どう扱われるのか。
そこまで考える必要があります。
名前を消せば大丈夫、ではない
ここは誤解されやすいところです。
名前を消しただけでは、匿名になったとは限りません。
たとえば、
「地方都市の中学校に通う、学校で唯一の外国籍の生徒」
という情報です。
この場合、氏名はありませんが、その地域や学校を知っている人なら、誰のことか分かるかもしれません。
年齢、家族構成、職業、疾患、珍しい出来事。
こうした情報が重なると、本人が推測できることがあります。
心理職が扱う情報は、もともと個別性が高いものです。
そのため、見るべきなのは、
「名前を消したか」ではなく、「この情報の組み合わせから本人が分からないか」です。
まず確認するのは、職場とサービス
業務でAIを使うなら、まず所属機関の規程を確認しましょう。
病院、学校、福祉施設、企業、行政機関などでは、個人情報や外部サービスの利用についてルールがあります。
そこに「生成AI」と書いていなくても、業務データの外部送信に関する規程が当てはまることがあります。
「これくらいなら大丈夫だろう」と自分だけで決めてはいけません。
分からなければ、担当部署に確認する。
そして、もう一つ、使っているAIサービスのデータの扱いも確認しましょう。
気をつけるポイントは、「学習に使われるか」だけではありません。
保存されるのか。
どのくらい保存されるのか。
サービス改善に使われるのか。
人が確認する可能性はあるのか。
条件はサービスや契約によって違います。
しかも、しれっと変わることがあります。
なので、「このサービスなら安全」と一度決めて終わりにはできません。
本人に説明できるか
迷ったときに、ひとつ分かりやすい基準があります。
その使い方を、本人に説明できるか。
「あなたから聞いたこの情報を、こういう目的でAIサービスに入力しました」
そう説明する場面を想像してみてください。
言いにくい。
相手が驚きそう。
自分でも少し引っかかる。
そう感じるなら、一度止まった方がいいと思います。
特に、面接内容の文字起こしや記録支援など、クライエントの情報そのものをAIで扱う場合には、説明や同意をどう考えるかが重要になります。
まずは、クライエント情報を使わないところから
生成AIを仕事で使ってみたいなら、最初から難しいところに行く必要はありません。
たとえば、
- 心理教育資料のたたき台をつくる
- 研修スライドの構成を考える
- 案内文や事務文書を整える
- 理論や概念について考えを整理する
- 統計処理のコードを考える
- アイデアを広げる
このあたりは、クライエントの情報がなくてもできます。
まずは、個人情報や事例情報を使わなくてもできる仕事から。
これだけでも、AIを使える場面はかなりあります。
AIに任せないこともある
便利でも、任せない方がよいことがあります。
診断をAIだけで決める。
心理検査の解釈を丸ごと任せる。
危機場面での対応をAIに決めてもらう。
もちろん、こうした使い方は避けるべきです。
特に、安全にかかわる判断は、AIに委ねるものではありません。
AIは、目の前の人の表情や声、その場の状況まで見ているわけではありません。
最終的な判断と対応は、専門職が引き受ける。
ここは変わりません。
余談|AIとの付き合い方も、学び直し
ここまで挙げてきた線は、最初から決まっていたものではありません。私自身、使いながら「ここは任せない」「ここは確かめる」と決めてきました。
思い返すと、公認心理師という国家資格ができたとき、私たちは倫理観をアップデートしました。秘密保持、連携、説明責任。それまでも大事にしてきたことですが、国家資格になったことで、あらためて言葉にして学び直した人は多いと思います。
AIも同じだと思っています。これまで付き合ってこなかった相手なので、どこまで任せられるのか、何を入力してはいけないのか、出てきたものをどう確かめるのか。一つずつ学んでいくしかありません。もちろん、私自身も学んでいる最中です。
まとめ
心理職がAIを使うとき、まず考えたいのは、
「便利かどうか」より、「何を入力してよいか」
です。
まずは、この4つ。
- 所属機関のルールを確認する
- AIサービスのデータの扱いを確認する
- 名前を消しただけで匿名だと思わない
- クライエント情報を含まない仕事から使う
これくらいから始めれば十分です。
次回は、個人情報を使わずに、今日からできるAI活用を具体的に紹介します。
心理職がAIを使うときの共通の注意
- クライエントの情報を安易に入力しない
- 所属機関の規程と、利用するサービスのデータ取扱いを確認する
- 重要な判断をAIに委ねず、出力は自分で確認する
