実習って何をするの? 実習先と一日の流れ
大学院に入るまで、実習の中身はなかなか見えません。「病院に行くらしい」「ケースを持つらしい」くらいの情報は得ていても具体的にイメージすることができていない人も多いのではないしょうか。
公認心理師の大学院で行う「心理実践実習」は450時間以上。学部の実習(80時間以上)の5倍以上です。時間の長さ以上に大きいのが、見学実習中心だった学部と違い、実際のクライエントとかかわるという違いです。
そしてもうひとつ大事なのが、実習の中身は大学院によってかなり違うということです。この記事では共通する部分を整理しつつ、大学院ごとに違う部分がどこなのかも紹介します。進学先を選ぶときのにもなります。
先に結論
- 実習は450時間以上。そのうち担当ケースに関する実習が270時間以上、うち学外施設での実習が90時間以上と決められています。
- 実習は、大学院の附属相談室で行う学内実習と、病院や学校などで行う学外実習に分かれます。医療機関での実習は必須です。
- 学部の実習は見学が中心ですが、大学院では実際のクライエントとかかわります。ここがいちばんの違いです。
- ただし、どこまでやらせてもらえるかは実習先によって大きく違います。陪席が中心の実習先も珍しくありません。
- 実習先の分野、通い方(通年・集中・分散など)、スーパービジョンの形。このあたりは大学院ごとに違い、実習先によっても違います。進学前に確認してください。
実習の全体像

図:心理実践実習(450時間以上)の内訳と主な内容
国が定める心理実践実習の要件は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 総時間 | 450時間以上 |
| うち、担当ケースに関する実習 | 270時間以上 |
| さらにそのうち、学外施設での実習 | 90時間以上 |
| 分野 | 保健医療・福祉・教育・司法犯罪・産業労働のうち3分野以上が望ましい。医療機関は必須 |
学部との、いちばん大きな違い
学部の「心理実習」は、施設の見学や説明を聞くことが中心です。現場の雰囲気を知り、心理職がどんな場所で働いているかを理解するための実習でした。
大学院の「心理実践実習」では、実際のクライエントとかかわります。目の前に、困って相談に来た人がいる。その人の話を聞き、記録を書き、次にどうするかを考える。指導者がついているとはいえ、自分の言葉や態度が相手に届いてしまう場に立ちます。
この違いは、心構えの面でも大きなものです。「勉強させてもらう場」であると同時に、「相手にとっては本番」でもあります。実習生であっても、相手にとっては相談相手の一人です。
学内実習と学外実習
| 学内実習 | 学外実習 | |
|---|---|---|
| 場所 | 大学院の附属心理相談室 | 病院、学校、児童相談所、少年鑑別所、企業の相談室など |
| 主な内容 | 受付、インテーク面接の陪席、ケース担当、ケースカンファレンス | 陪席、心理検査の陪席・実施、多職種カンファレンス、施設の業務の理解 |
| 特徴 | 継続的に同じケースにかかわる | その現場の仕組みや多職種の動きを知る |
実習で実際にすること
実習で経験する内容を挙げていきます。ただし、この順番どおりに全部を経験するとは限りません。実習先によって、できることは大きく変わります。
最後まで陪席が中心という実習先もあります。守秘性の高い場面が多い施設、実習生が直接かかわることが難しい施設では、それが適切な形でもあります。「自分の実習は陪席ばかりで遅れているのでは」と焦る必要はありません。見て、考えて、記録に残すことも実習です。
1. 陪席
多くの場合、教員や指導者が行う面接に同席させてもらうところから始まります。自分は話さず、やりとりを見て、終わったあとに指導を受けます。
「何を見ればいいかわからない」と感じるのが普通です。最初のうちは、話の内容よりも、面接の始め方と終わり方、沈黙のときに何が起きているか、といった枠組みに注目すると学びやすくなります。
2. インテーク面接の陪席と記録
インテーク面接は、相談に来た人から最初に話を聞く面接です。陪席したあとに記録をまとめ、指導を受け、インテークカンファレンスで報告します。
「見たことを、他の人に伝わる形で書く」という練習が、ここから始まります。
3. 心理検査
指導者のもとで、心理検査に陪席したり、実際に実施したりします。知能検査、性格検査、発達検査などです。実施の手順だけでなく、結果をどう読み、どう伝えるかまでが学びの対象になります。
4. ケース担当
準備が整い、条件がそろえば、自分のケースを担当します。多くは大学院の附属相談室で、週1回や隔週の面接を継続し、そのたびに記録を書き、指導を受けます。
ただし、在学中に何ケース持てるかは大学院によってまったく違います。相談室が活発なところでは複数のケースを担当できますが、そうでないところもあります。ここは進学前に確認しておきたいポイントです。
このときの負担は、時間だけでは測れません。「うまくできなかった」という気持ちを抱えたまま次の週を迎えることもあります。だからこそ、次に書くスーパービジョンと、同期と話せる場が大事になります。
5. カンファレンス
多職種が集まるカンファレンスに参加し、医師、看護師、精神保健福祉士、教員などがそれぞれどんな役割を担っているかを知ります。公認心理師法にも「関係者との連携」が定められています。連携は、教科書より現場で覚えるものです。
スーパービジョンの形は、大学院によって違う
ケースを担当すると、その支援について継続的に指導を受けます。これがスーパービジョン(SV)です。実習の質を決める部分であり、大学院によっていちばん差が出るところでもあります。
3つのタイプ
| タイプ | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 学内の教員がSVを担当 | 指導教員や相談室の担当教員から受ける | 費用がかからないことが多い。相談室の事情を共有できる |
| 学外のスーパーバイザーを選べる | 大学院の外の心理職に依頼する | 自分の関心や学派に合わせて選べる。自費のことが多い |
| 両方を組み合わせる | 学内で基本を、学外で専門的な視点を | 負担は増えるが、視野は広がる |
学外のスーパーバイザーにお願いする場合、費用は自己負担になることが多く、1回5,000〜10,000円程度かかることもあります。回数が重なると在学中の出費として無視できません。一方で、自分の関心に合ったスーパーバイザーから継続的に学べることは、修了後の力に直結します。
確認しておきたいこと
- SVは学内で受けられるか。それとも学外に依頼する前提か
- 学外の場合、スーパーバイザーは自分で探すのか、紹介してもらえるのか
- 費用は自己負担か、大学院が一部負担するのか
- 頻度はどれくらいか(毎週、隔週、月1回など)
- グループSV(複数の院生で受ける形)があるか
大学院の説明会で聞いても、嫌がられる質問ではありません。むしろ、ここを気にして来る受験生は、実習の中身を分かって来ていると受け取られます。
進学先を選ぶときに見るポイントは、大学院選びの記事にまとめています。
実習先の領域と行き方は、大学院ごと・施設ごとに違う
実習先については、国の通知で「医療機関での実習は必須」「主要5分野のうち3分野以上が望ましい」とされています。共通して決まっているのは、ほぼここまでです。
そこから先は、大学院によって違い、さらに同じ大学院の中でも実習先によって違います。「うちの大学院はこういう実習」と一言で言えることは、あまりありません。
通う形もいろいろ
実習先に通う形は、たとえば次のように分かれます。組み合わせている大学院も多く、実習先ごとに形が違うこともあります。
| 形 | イメージ | 感じやすい違い |
|---|---|---|
| 通年型 | 週1回など決まった曜日に、年間を通して同じ施設に通う | 同じ人・同じ場の変化を継続して見られる。職員に顔を覚えてもらいやすい |
| 集中型 | 夏休みなどにまとめて短期間通う | 授業や修論との調整がつけやすい。複数の分野を経験しやすい |
| 分散型 | 月に数回、あるいは行事や特定の業務に合わせて通う | 乳幼児健診のように、実施日が決まっている業務に合わせて入ることがある |
クリニックや学びの支援センターなど、継続して通わせてもらえる実習先もあれば、期間を区切って受け入れている施設もあります。受け入れ側の体制や業務の性質によるところが大きいので、「この施設はこの形」と決まっているわけではありません。
いずれにしても、平日の時間の使い方は形によってかなり変わります。通年で通う実習が多ければ、その曜日は固定で埋まります。アルバイトの入れ方も、修論を進める時間の取り方も変わってくるので、入学前にだいたいの形を聞いておくと計画が立てやすくなります。
実習先の例
医療機関のほかに、どんな施設と連携しているかは大学院によってまちまちです。あくまで一例ですが、次のようなところがあります。
| 分野 | 実習先の例 |
|---|---|
| 保健医療 | 精神科病院、総合病院の心理部門、クリニック、保健センターの乳幼児健診 |
| 教育 | 小中学校、教育相談室、学びの支援センター(旧・適応指導教室)、大学の学生相談室 |
| 福祉 | 児童相談所、児童養護施設、放課後等デイサービス、障害者支援施設、地域包括支援センター |
| 司法・犯罪 | 少年鑑別所、少年院、保護観察所、家庭裁判所 |
| 産業・労働 | 企業の相談室、EAP機関、障害者職業センター |
たとえば乳幼児健診に入れば、地域の子どもの発達を広く見る機会になります。学びの支援センターや放課後等デイサービスであれば、学校や家庭と連携しながら子どもにかかわる形に触れられます。どんな実習先があるかは、将来どの分野で働きたいかと重なってくる部分です。
そのため、大学院を選ぶ段階で、実習先にどんなところがあるのか、配属はどう決まるのか(希望が通るのか、割り振りなのか)を聞いておくとよいと思います。パンフレットには「5分野で実習」とだけ書かれていることも多いので、説明会で具体的に確認してみてください。実習先は年度によって変わることもあるので、「今年度はどこに行っていますか」と聞くと、実情が見えやすくなります。
附属の心理相談室がない大学院もある
多くの大学院には附属の心理相談室がありますが、すべてではありません。相談室がない場合、学内でのケース担当をどうしているのかは、確認しておきたいところです。臨床心理士を養成している(養成していた)大学院であれば、ほぼ併設しています。
学内で担当できるケースがないため、架空の事例を使って検討している、という話を聞くこともあります。このあたりは要チェックです。
一日の流れ(例)
施設によって大きく違いますが、イメージをつかむために2つの例を挙げます。
病院での実習日の例
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 8:45 | 出勤、あいさつ、白衣に着替え |
| 9:00 | 朝のミーティングに参加。その日の予定と患者さんの情報を共有 |
| 9:30 | 外来での心理検査に陪席、または実施 |
| 12:00 | 昼休み。他職種のスタッフと話す時間にもなる |
| 13:00 | 心理面接に陪席。終了後に指導者から解説を受ける |
| 15:00 | デイケアや集団プログラムに参加 |
| 16:30 | 記録をまとめ、指導者に提出して指導を受ける |
| 17:00 | 終了。帰宅後、その日の振り返りをまとめる |
学内相談室での一日の例
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 10:00 | 相談室の開室準備、受付当番 |
| 11:00 | インテーク面接に陪席 |
| 13:00 | 自分の担当ケースの面接(50分) |
| 14:00 | 記録の作成 |
| 15:00 | スーパービジョン |
| 16:30 | ケースカンファレンス。院生と教員でケースを検討する |
実習記録の書き方
実習記録は、個人的なメモではありません。手引きでも「私的な記録ではなく公的な記録」とされています。扱い方には決まりがあります。
| 決まりごと | 内容 |
|---|---|
| 書くタイミング | 実習当日に記入し、実習日ごとに指導者に提出して指導を受ける |
| 筆記具 | 黒のボールペンか万年筆。鉛筆は使わない |
| 訂正のしかた | 二重線を引いて訂正印。修正液は使わない |
| 名前の書き方 | 利用者の名前は、頭文字以外のイニシャルで表記する |
| 保管 | 持ち帰りや保管のルールは施設ごとに違う。必ず確認する |
書く内容は、起きたことの羅列ではなく、「何が起きて、自分は何を感じ、何を考えたか」です。うまくいかなかったことを書いても評価は下がりません。むしろ、そこを言葉にできる人ほど伸びます。
守秘義務について
公認心理師法第41条は、業務で知った秘密を漏らしてはならないと定めています。これは資格を持ってからの話ではなく、実習生のうちから守るべきことです。実習中はもちろん、実習が終わったあとも同じです。
気をつけたい場面を挙げておきます。
- 電車やカフェでの会話。同期との振り返りでも、場所を選ぶ
- SNS。実習先の名前や日々の出来事を書かない
- 記録やメモの持ち出し。施設のルールに従う
- 家族に「今日こんな人が来てね」と話すこと。これも守秘義務違反です
よくある不安
「自分は何もできない」と落ち込む 実習の前半は、見ているだけの時間が長く続きます。それが普通です。指導者は「できること」ではなく、「見ようとしているか」「振り返っているか」を見ています。
質問していいのかわからない 忙しそうに見えても、質問は歓迎されることが多いです。ただ、タイミングは選んでください。面接直後ではなく、記録を提出するときにまとめて聞くとスムーズです。
うまくいかなかったケースを引きずる 持ち帰らずに、スーパービジョンとカンファレンスで扱ってください。一人で抱えないことも、専門職として身につけるべき技術のひとつです。
不安になることも多いかもしれませんが、報連相を意識し、実習指導者の先生、そして学内の実習担当の教員としっかりコミュニケーションをとりましょう。
まとめ
- 心理実践実習は450時間以上。担当ケース270時間以上、うち学外90時間以上。
- 学部の見学中心の実習と違い、実際のクライエントとかかわる。ここが最大の違い。
- ただし内容は実習先しだい。陪席が中心のところもあり、それも実習のうち。
- 実習先の分野、通い方(通年・集中・分散など)、スーパービジョンの形(学内か学外か、費用は誰が持つか)は、大学院ごと・実習先ごとに違う。進学前に確認する。
- 記録は公的な記録。書き方と扱い方に決まりがある。
- 守秘義務は実習生にも及ぶ。SNSと日常会話に注意。
実習と並行して進むのが修士論文です。次の記事では、修論のテーマの決め方を紹介します。
参考
- 大学院の「心理実践実習」手引き 2022年改訂版(日本公認心理師養成機関連盟)
- 「公認心理師法第7条第1号及び第2号に規定する公認心理師となるために必要な科目の確認について」(厚生労働省)
- 公認心理師法施行規則
- 現場実習(心理実践実習)実習生用手引き(公認心理師養成大学教員連絡協議会)
(2026年9月時点の情報です。一日の流れは一例で、施設によって異なります)
