G・スタンレー・ホールとは? 子どもと青年の「発達」に目を向けた心理学者

G・スタンレー・ホール(G. Stanley Hall, 1844–1924)は、アメリカの心理学者です。発達心理学、とりわけ児童期や青年期の研究を切り開いた人物として知られています。また、1892年に設立されたアメリカ心理学会(APA)の初代会長を務めるなど、アメリカで心理学が学問として根づいていく過程でも大きな役割を果たしました。
ホールが心理学を学び始めた19世紀後半は、心理学そのものが新しい学問でした。ヨーロッパではヴントが実験心理学を発展させ、アメリカでも心理学を大学で研究する動きが始まりつつありました。
ホール自身もドイツに渡り、ヴントのもとで学んでいます。しかし、彼が強く関心を向けたのは、実験室で測定できる心の働きだけではありませんでした。
ホールは、子どもを単に「小さな大人」として見るのではなく、発達の途中にある存在として捉え、その年齢ならではの心理や行動を研究しようとしました。学校などを通じて子どもについての情報を集める「児童研究(child study)」を推進し、心理学と教育を結びつけていきます。
なかでも心理学史に大きな足跡を残したのが、1904年に出版した大著『Adolescence』です。当時、「青年期」は、現在のように心理学における独立した重要な発達段階として広く研究されていたわけではありませんでした。ホールは青年期の心理や行動を体系的に論じ、この時期を心理学の重要な研究対象として前面に押し出しました。
ホールは青年期を、感情や行動が大きく揺れ動く「疾風怒濤(storm and stress)」の時期として描きました。この考えは、その後の青年心理学に大きな影響を与えます。
一方、すべての青年が同じような激しい葛藤を経験するわけではありません。その後の研究では、個人差に加えて、文化や社会環境による違いも大きいことが重視されるようになりました。そのため、ホールの青年期観をそのまま現代の発達心理学として受け入れることはできません。
さらに、ホールの発達論には、当時の進化思想の影響が色濃く表れています。個人の発達が、人類や種の進化の歴史を繰り返すとする「反復説」に依拠した部分は、現在では支持されていません。また、人種や文化について、今日から見れば明らかに問題のある階層的な見方も含まれていました。
一方で、ホールにはもう一つ、心理学史に残る大仕事があります。
1909年、当時クラーク大学の学長だったホールは、大学創立20周年を記念する学術会議にジークムント・フロイトやカール・ユングらを招きました。フロイトにとって、これが生涯で最初で最後のアメリカ訪問となります。フロイトが行った講演は、アメリカで精神分析が広く知られる重要なきっかけになりました。
つまりホールは、自ら新しい研究領域を切り開いただけでなく、ヨーロッパで生まれた新しい心理学をアメリカへつなぐ「橋渡し役」でもあったのです。
ホールの理論には、現在では否定された部分や、当時の社会的偏見を反映した問題点も少なくありません。それでも、子どもや青年をそれぞれの発達段階にある存在として研究し、心理学を教育や社会へ広げていったことは、心理学史上の重要な一歩でした。
子どもには、子どもの心がある。
大人を基準に子どもを見るのではなく、子どもや青年そのものを研究する。現在では当たり前に思えるこの発想が、発達心理学という領域が形づくられていく一つの出発点になりました。
