心理学者図鑑

ウィリアム・ジェームズとは? 「心は何のためにあるのか」を考えた心理学者

gumix

ウィリアム・ジェームズ(William James, 1842–1910)は、アメリカの心理学者・哲学者です。アメリカ心理学の発展に大きな影響を与えた人物で、心の働きを「それが人間の生活のなかでどのような役割を果たしているのか」という視点から考えました。

ジェームズが心理学に取り組んだ19世紀後半は、心理学が独立した科学として形を整え始めた時代です。同時代のヴントが、実験的方法によって意識の過程を明らかにしようとしていた一方で、ジェームズは、実際に経験される意識のあり方や、心の働きが生活のなかで果たす役割にも強い関心を向けました。

ジェームズが重視したのは、心の働きが、人間が環境に適応し生きていくうえで、どのような役割を果たしているのかという問いでした。

この考え方は、のちにアメリカで発展する「機能主義心理学(Functionalism)」につながっていきます。ジェームズ自身が「機能主義」という学派を組織したわけではありませんが、その考え方の重要な基礎を築いた人物とされています。

ジェームズの代表的な著作が、1890年に刊行された『心理学原理(The Principles of Psychology)』です。全2巻に及ぶ大著で、習慣、注意、記憶、感情、意志、自己など、現在の心理学にもつながる幅広いテーマを論じました。

なかでも有名なのが、「意識の流れ(stream of consciousness)」という考え方です。

私たちの意識は、一つひとつの要素がバラバラに存在しているのではなく、川の流れのように絶えず変化しながら連続しています。ジェームズは、実際に経験される意識を、その流動性や連続性を含めて理解しようとしました。

また、感情についての「ジェームズ=ランゲ説」でも知られています。

たとえば、怖いものに出会ったとき、私たちは「怖いと感じたから心臓がドキドキする」と考えがちです。しかしジェームズ=ランゲ説では、刺激によって生じた身体の変化を知覚することが、感情の経験につながると考えます。

つまり、身体の変化と感情の関係を、それまでとは少し違った順序で捉えたのです。この考え方は、その後さまざまな批判や修正を受けることになりますが、「感情と身体にはどのような関係があるのか」という、現在まで続く重要な研究テーマにつながりました。

ジェームズの活動は、心理学だけに収まりません。

もともとは医学を学び、1869年にハーバード大学医学部で医学の学位(M.D.)を取得しました。しかし医師として診療の道には進まず、その後、生理学、心理学、そして哲学へと研究の領域を広げていきました。

哲学では、プラグマティズム(実用主義)を発展・普及させた人物として知られています。

ジェームズが重視したのは、考えや概念を抽象的なものとして扱うだけではなく、それが実際の経験のなかでどのような違いを生み、どのように働くのかという点でした。真理についても、現実の経験から切り離されたものとしてではなく、経験との関係のなかで考えようとしました。

さらに後年には、宗教や神秘体験についても本格的に論じるようになります。

1902年の『宗教的経験の諸相(The Varieties of Religious Experience)』では、宗教を教義や制度だけから考えるのではなく、個人が実際に経験する宗教的・精神的体験に注目しました。ここにも、抽象的な理論だけではなく、実際に人が経験していることを重視するジェームズの姿勢が表れています。

ジェームズの面白さは、心理学を狭い実験室のなかだけに閉じ込めなかったところにあります。

意識も、感情も、習慣も、宗教的経験も、実際に生きている人間が経験するものとして考えました。そして、心がどのような要素からできているのかだけではなく、「心が何をしているのか」「その働きが生きることにどう関わっているのか」を問い続けました。

現在の心理学から見れば、ジェームズの理論のすべてがそのまま支持されているわけではありません。ジェームズ=ランゲ説も、その後さまざまな批判や修正を受けています。

それでも、心を固定された構造としてだけ見るのではなく、環境のなかで働き、変化し続けるものとして捉えたことは、その後のアメリカ心理学に大きな影響を与えました。

心は、生きるためにある。

人間の心を、静止したものではなく、環境のなかで絶えず働き、変化し続けるものとして見つめた。それが、ウィリアム・ジェームズの心理学です。

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大学教員/公認心理師/臨床心理士/生成AIパスポート/ペンギン本シリーズ(翔泳社)執筆者のひとり。著書に『こころの道具箱 臨床心理学エッセンス203』(KADOKAWA)など。 2017年に、公認心理師を目指す人のための情報サイト「公認心理師ドットコム」を開設しました。これまでは試験対策を中心に発信してきましたが、リニューアルを機に、「心理学をゆるく知る。公認心理師をちゃんと知る。」をテーマにサイトを一新。 心理学用語や心理学者をキャラクターや物語で楽しく紹介する図鑑のほか、公認心理師を目指すための学び、資格取得後の仕事や働き方についての情報をお届けしています。
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