意思決定支援ガイドライン(障害福祉)が第2版に|何が変わった? ざっくり解説
令和8年9月、厚生労働省の「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」が第2版になりました。平成29年3月の初版から、約9年半ぶりの改訂です。
単なる言葉の手直しではなく、意思決定支援の定義そのものが変わった改訂です。この記事では、まず全体像をざっくりつかんでおきます。
まず、ひとことで言うと
| 初版(平成29年) | 第2版(令和8年) | |
|---|---|---|
| 意思がはっきりしないとき | 最後の手段として「本人の最善の利益」を検討する | あらゆる支援を尽くしても確認できない場合、「本人の意思と選好に基づく最善の解釈」を行う |
| 支援の進め方 | 意思の確認・推定と、最善の利益の判断 | 意思形成支援・意思表明支援・意思実現支援の3つのプロセス |
| 記録とアセスメント | 表情や行動から意思を「推定」する根拠として記録する | 能力を測るのではなく、意思の表れ方を理解するためのアセスメント |
支援者が「本人にとって何がよいか」を基準に判断する構造から、「本人ならどうするか」を基準に支援を考える構造へ。これが今回の改訂の軸です。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版) |
| 発出 | 令和8年9月、厚生労働省 障害保健福祉部 |
| 初版 | 平成29年3月31日(障発0331第15号) |
| 対象 | 障害福祉サービス等を提供する事業者が行う意思決定支援(認知症や医療など他分野のガイドラインは対象外) |
きっかけは、国連の障害者権利委員会が令和4年10月の総括所見で、「本人の最善の利益」という言葉の使用に懸念を示したことです(第2版 Ⅰ-1、p.1〜2)。厚労省はこれを言い換えで済ませず、定義から組み立て直しました。
変わったポイントを3つ
1. 「最善の利益」から「最善の解釈」へ
初版では、支援を尽くしても本人の意思がわからないとき、最後の手段として「本人の最善の利益」を検討する形でした。第2版ではこれが削除され、あくまで本人の意思と選好に基づく解釈を行うことになりました(Ⅱ-1、p.6)。
では、本人の選択が命に関わるような場面ではどうするのか。第2版は、この問題にも一つの整理を示しています。そこには、現場の記録の書き方にも関わるポイントがあります。
2. 「能力」は支援との関係で変わるもの
意思決定能力は「ある・ない」ではなく、支援の有無や程度によって変わるものとされました(Ⅱ-3(1)、脚注11、p.10)。アセスメントも、能力を測るためではなく、意思が表れやすい条件を理解するためのものです(コラム❸、p.18)。
3. 3つのプロセス
新しく「意思形成支援」「意思表明支援」「意思実現支援」という3つのプロセスが示されました(Ⅲ-2、p.15〜17)。3つは順番どおりでなくてよいとされています。
読み比べると見えてくる、小さな言い換え
初版と第2版を並べて読むと、短い言い換えの中に大きな変化が隠れています。
たとえば、住まいの移行の原則。初版の「より制限の少ない生活」が、第2版では「本人の希望する生活」になりました(Ⅲ-1(2)、p.15)。わずかな違いに見えますが、支援者側の基準から本人の希望へ、軸が移っています。
同じような変化は、ほかにもあります。定義の対象範囲、意思決定支援責任者の位置づけ、そして図1(意思決定支援の流れ)の入口。どれも、読み比べないと気づきにくいところです。
心理職との接点:アセスメントと記録
第2版のコラム❸❹(p.18〜19)では、表情や身体の緊張、視線の動きを、意思の表れとして仮説的に捉えて検証することが求められています。記録は単なる経過報告ではなく、アセスメントを深める基盤だとされています。
心理職にとっては、力を発揮しやすい部分だと思います。ただ、ここで一つ問いが残ります。
「活動を拒否した」「説明を理解していない様子」。このような場合、どう記載するとよいのでしょうか。
続きはnoteで:この記事で残した問いの答え
この記事で残した問いには、noteの解説記事で答えています。
- 本人の選択が命に関わるとき、第2版はどう整理したのか
- 心理検査の所見を、意思決定支援にどう活かすか
- 「拒否した」「理解していない様子」の記録を、どう書き直すか
- 定義、責任者、図1の入口は、それぞれどう変わったのか
初版と第2版を章番号・ページ付きで突き合わせた新旧対照表(10テーマ)、アセスメントの観点シート、会議で使える問いかけ、事業所の差し替えチェックリストもまとめています。

図:noteの新旧対照表から(意思決定支援が必要な場面)

https://note.com/tetra_8118/n/n0192c02b5c13
関連する動き:成年後見制度の見直し
第2版の脚注1(p.1)で、民法の改正にも触れられています。令和8年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」が成立し、後見と保佐の制度を廃止して、補助の制度に一本化することになりました。施行後は、ガイドラインの成年後見人等に関する部分をどう読むかが課題になりそうです。この改正は、別の記事で取り上げる予定です。
まとめ
- 第2版は、国連の懸念をきっかけに、定義から組み立て直した改訂。
- 「本人の最善の利益」は「本人の意思と選好に基づく最善の解釈」へ。
- 意思決定能力は支援との関係で変わるもの。アセスメントは能力を測るためではない。
- 意思形成・表明・実現の3つのプロセスが新設された。
参考リンク
| 資料 | 出しているところ |
|---|---|
| 障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版) | 厚生労働省(令和8年9月)。本文・別冊・改訂のポイントの入口 |
| 第2版 本文(PDF) | 厚生労働省 |
| 初版(平成29年3月31日 障発0331第15号)(PDF) | 厚生労働省 |
| 「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について | 法務省 |
(2026年9月時点の情報です。ページ番号は第2版PDFの表記によります)
